「宝塔」第266号
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 人は情けの下に住む

心すなおに 愛と信を持つ人は
仏に護られて 喜びと
楽しい人生を渡る
よき縁にめぐりあう

 ある母親が心配そうに相談されました。
  「実は私は家を出て実家に帰って少しほとぼりをさましたいと思っておりますが、 何か良い方法はありませんでしょうか」
 事情をお伺いしますと、 この母は二人の子供さんのある家庭へ後妻に入られた方なのです。 

 主人とは仲良く、 二人の子供もよくなつき、 幸福な毎日でありましたが、 ある日、 町の商店から、
  「お宅の息子さんの事ですが、 お母さんに直ぐ来ていただきたい」
 と電話がかかりました。何であろうかと心配しながら、 その商店に行きますと、 どうぞこちらへと案内されました。 応接間に入りますと、 息子が青ざめた顔をして、 しょんぼりと立っています。 
  「何か、 あったの」 と聞きますと、店の人は、
  「奥さん、 驚いてはいけませんが、 この息子さんが万引きをされまして、 私が見つけたのですが、 まだ誰にも話していませんから、 出来ることなら、 穏便(おんびん)に私と親御(おやご)さんとの間で話し合いをしてと思いまして、 お電話させていただいたのですが・・・」 
 と説明されました。
  「それで何を取ったのですか」
 と聞きますと、 それは高価な機関車のモデルでした。
 「何でこんな物を取ったの」 と聞きますと、
 「お父さんが、 こんな機械物が好きだから、 お父さんにあげたかったから」
 と答えました。 
 私は心で「やはり実の親がいいのだな、 私がどんなにこの子を可愛く思って育ててきても、 継母(ままはは)だから私の事を思ってはくれないのかなぁ」と少し心がひねくれました。
 店の人は、
  「まだ初めてだし、 この息子さんに傷をつけたくありませんので、 穏便に致しておきますから代金だけ支払って下されば、 それで結構です」
 と言って下さいました。
 そこで早速、 代金をお支払いして許していただき、 息子と共に家に帰りましたが、 私のショックが大きく、 店の人に対して恥ずかしいやら、 すまないやらで心が落ち着きませんでした。
 「学校の方へは通知いたしませんからご心配なく」 と言って下さいました事が本当に嬉(うれ)しく感謝いたしました。
 その夜、 主人に今日の事を話しまして、 息子のしつけの為にと思い、 私はあんな息子と一緒にいるのは嫌(いや)だから一度実家に帰って、 息子を反省させる為にも、 家を出る決心をしたのです。主人は「少しの間だぞ」と言ってしぶしぶ許して下さいました。 
 今朝は学校へ行きましたが、 学校から帰らないうちに家を出ようと思いまして、 息子が帰って食べられるように食卓にパンとコーヒーを用意して、 よく見えるようにと手紙を書きました。
  「あなたがあんな事をして母さんは恥ずかしい、 そんな子と一緒に暮らすのは嫌だから、 実家に帰ります」
 と書いておきました。 奥の部屋で着替えておりますと、「ただいま」 といつもと変わらぬ同じ声で元気良く帰ってきましたが、 私は黙っていました。 
 すると食卓の手紙を読んだらしく、 息子は泣きだして、
  「お母さん僕が悪かった、 心配かけぬ良い子になるからお母さん帰ってきて」 
 と大声で泣きながら言っておりましたが、 私は心を鬼にして裏口から、 こっそりと出て来ました。 
 そのまま実家に帰ろうと思いましたが、 先生の所に来て相談してからと思い訪ねて来ました。

 この様にその母親は言われたのです。

思いやりと真心で

 「あなたは、 すぐ帰って息子さんの気持ちを汲(く)んでやる事が大切ですよ。 自分が恥をかいたから、 辛い思いをしたからと言って、 息子に辛く当たる事はいけない事です。息子さんが泣いて母に対して、 自分の行為が間違っていた事を反省しているのに、 その上にあなたの自分勝手な心を押しつけるようでは母として無責任ですよ。
 『悪かった』 と素直な心にあなたは喜んで許してあげて、その上に深い母の愛情を持つ事が大切なのだと思います。
 息子はあなたを母として信じているのです。 その信ずる心に答えてやらなければいけないと思います。 ここで、あなたの出方が息子さんを幸福にするか、 不幸にするかの分かれ道なのです」 
 「先生、 どうすればいいのでしょうか」
 「それは、 あなたがすぐに家に帰ってやる事です。 家に帰って、『母さんは家には居まい、 と思って実家に帰りかけたけど、 お前が可愛くなって帰って来たよ。 母さんがあなたを信じなくて、 悪く思ってごめんね、 許してね』と言えば、 きっと息子さんも、『母さん心配かけてごめんなさい』と心から自分の行為を反省して二度と間違いを起こさないと心に誓うでしょう。 今頃は母の帰りを、 きっと心の中で待っていますよ」 
 と申しますと、
  「先生のおっしゃるようにいたします」
 と言って帰られました。

信ずる事が幸福を呼ぶ

 あくる朝、 電話がありまして、
  「先生、 私は帰って良かったと思いました。 すぐ帰りますと息子は家に居らず、 どこへ行ったのか心配でしたが、 信ずる事が幸福に変わるのだとおっしゃった事を思い出し、 息子を信じて夕食の用意をして待っていますと息子がしょんぼり帰って来ました。 私の姿を見て、
 『母ちゃん、 帰ってくれたの』
 と言って、 にこっとしました。 
 『母さんがあなたを驚かせて悪かったね、 許してね』
 と申しますと、
 『うん、 僕きっと母さんに喜んでもらえる子になるから母さん心配しないで』
 と言って私の肩をポンとたたいて自分の部屋に行きました。 帰って良かった、息子の心を知って良かったと思いました。
 息子が肩をたたいた手のぬくもりが今でも温かく感じております。 本当に有り難うございました」
 と喜んでおられました。

 「人は情けの下に住む」 と教えられます。

お互いが意地を張るのをやめ、
思うようにしたいと言う心を捨て、
人々の為、 世の中の為に役に立とう

とお互いが努力し合って、 明るく円満な家庭生活を送ることこそ、 真の信仰であります。
 また、 子供のことで心配する親たちは、 我が子ばかりを見ています。
 すべては因縁因果ですから、自分の子供時代を振り返り、 親の立場に立って自分を見て、 親に心配をかけたことを懺悔(さんげ)すること。
 現在の自分も子供の立場で常に親に心配をかけていることを知り、 親に安心と喜びを与える生活を心掛け、子供の魂にも、 自分の身勝手と親不孝の道をつくったことを懺悔することです。

合掌

宝塔266号(平成14年3月1日発行)