『教祖杉山辰子先生-その御生涯とみ教え-』
監修:杉崎法山 編纂:大乗教教学部 発行:大乗教総務庁
(1967年6月28日 第1版第1刷発行. 1999年6月28日 第2版第1刷発行.)
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まえがき
釈尊御一代を通じての御誓願は、 いわゆる 「衆生無辺誓願度」 (安立行菩薩)、 「煩悩無数誓願断」 (浄行菩薩)、 「法門無尽誓願知」 (無辺行菩薩)、 「仏道無上誓願成」 (上行菩薩) の四誓願で、 仏教徒として 「仏の教を学び、 煩悩を断ち切ろう」 「自分の悟ることによって、 多くの人のためになろう」 という、 どんな人々にも共通な願いです。 この根本的な四つの誓願を代表するのが、 上首唱導、 本化の四大菩薩です。 逆にいえば、 この四大菩薩は、 あらゆる仏教徒の根本的な願いの象徴であるとも言えます。
釈尊が法華経を説かれるに当たり、 迹化の菩薩等の弘法の希望を斥けられて、 久遠の昔から既に教化された本化の菩薩を召し出され、 末法の教化を付嘱されたことは、 経典に明らかなところです。 いいかえると、 五濁末法に正法弘通の使命を持つのは、 本化地涌の四大菩薩以外にはないのです。
その四大菩薩の一人、 上行菩薩の出現といわれる日蓮聖人は、 像法の終わり、 末法の始めに出られて、 法華経流布に努力されました。 しかし世間では、 上行菩薩である日蓮聖人だけを認めて、 無辺行、 浄行、 安立行の他の三菩薩については、 これを説く人も知る人もありませんでした。 法華経は末法万年の闇を照らす、 釈尊の準備された唯一無二の経典で、 その 「皆是真実」 であることを疑う人はありませんが、 尊い法華経が存在するに拘らず、 実の法華経行者は久しく世に出られませんでした。
しかし、 ここに天の福音ともいうのでしょうか、 大正三年秋、 名古屋市東区清水町に仏教感化救済会を設立された教祖杉山辰子先生は、 四菩薩中の安立行菩薩として出現されて、 その使命を果たすべく、 末法における正法弘通を誓われたのであります。 当時、 杉山先生の御教説は仏教界破天荒のもので、 法華経方便品の 「十如是」 のうち、 「相・性・体」 の哲理を直ちに人類上に応用され、 また他心通をもって人の心理の状態を洞見されたり、 宿命通によって人の過去を観察されるなど、 今人未発の通力をもって、 あらゆる方面から人々の精神状態の改善をはかられました。
先生の御教化の方法は、 あくまでも事実的な問題に重きをおかれて、 理論だけに偏らず、 事・理を通じて精神の修養に努力するよう教えられました。 そして過去の罪業も、 その多寡(たか)に応じて、 消滅、 軽減の道を講じられて、 ついには心の垢穢(こうあい)を去る法によって、 人々の迷夢を醒まされました。 その実行の法は、 一々経文に基づかれて、 貧者は福徳者に、 病弱者は健康者に、 苦悩の者は歓喜者に、 人々は夫々その処を得て、 仏子として、 本分を悟られました。 しかも実行によっては天眼を得て、 自己の運命を予知したり、 一家の禍福を予言する通力を得た人も沢山ありました。 また国家的な問題として、 重大事件を未然に予言して当局に建言して、 百発百中、 人々を驚嘆させられた実例は枚挙に遑ありません。 これこそ地徳を持たれる安立行菩薩のお力であって、 杉山先生の実践的御教化と、 体得された神通力によるお働きは他に例を見ません。 経文に照らして、 時代的要求である安立行菩薩の出現であることに一点の疑いもありません。
その安立行菩薩としての使命を実践された、 教祖杉山辰子先生の御教を受け継ぐ私共が、 今日何よりも他に誇り、 教徒として喜びとするところは、 先生が私共のために、 久遠実成の釈迦牟尼仏を中心とする 「一尊四菩薩」 の御本尊を、 絶対不二の大御本尊としてお定めくださったことです。 この一尊四菩薩 (久遠実成の釈迦牟尼仏と上行、 無辺行、 浄行、 安立行の地涌菩薩) こそ、 日蓮聖人も、
「本門久成の教主釈尊を造り奉り、 脇士には久成地涌の四大菩薩を造立し奉るべし」
「今末法に入れば尤も仏の金言の如くんば造るべき時なれば本仏、本脇士造り奉るべき時なり」
といわれた閻浮堤第一の大本尊なのです。
教祖杉山先生が御入寂されて三十六年、 まさに時代は末法の様相を呈して、 真に物心両面の救済を願求する声に満ちております。 現代ほど杉山先生の 「地徳の教え」 を要求される時代はありません。 この時に当たって教祖の御遺徳をしのび、 その御一代の御実蹟と御遺教を蒐め、 『教祖杉山辰子先生』 として上梓することになりました。 この一書によって、 杉山先生が身をもって示された御遺教の真髄を、 少しでも世の方々に訴えることが出来ますれば、 この上なき幸せであります。
皆さま方と共に 「我身宝塔、 宝塔我身、 我身の外に宝塔なし」 の教えを胸に、 行住坐臥 「妙法蓮華経」 を唱題して、 大乗広宣流布に一層の精進を重ねたいと誓うものであります。
合 掌
昭和四十二年六月吉日
大乗教管長
杉崎法山誠識