餓鬼道に落ちた母親の苦しみを除こうとして七月十五日十方の聖僧に百味の飲食(おんじき)を供養して救ったお話で有名な目連尊者。
ある時、 裸の修行者たちが集まってひそひそ話をはじめた。 おれたちはよく相談しよう。
「どういうわけで沙門ゴータマ (お釈迦さま) を尊敬したり、 布施する人が多いのだろうか」
「それは目連という弟子のお蔭だと思う。 目連は神通力第一で、 天界のことや餓鬼道地獄のことを人々に語って聞かせる。 大衆は目連の言葉をすっかり信用して、 彼をあがめ、 釈尊を尊敬し教団に多大の布施することをおしまない。 だから我々が目連を殺すことができれば、 その尊敬や布施は我々の方にまわってくるぞアッハッハ」
外道たらは自分たちの信者にお金を集めさせ、 盗賊の頭に金をちらつかせ目連を殺すように命じた。 「目連は神通力があるから気をつけて殺せ、
殺せば約束のお金を与える」。盗賊の頭はすぐに承諾した。次の日、 盗賊たちは目連の家のまわりを取り囲んだ。
目連は盗賊たちに取り囲まれたことを知ると、 神通力でカギの穴から逃げだした。 盗賊たちは第一回目では目連を捕まえることができなかった。 別の日に盗賊たちはまた家を取り囲んだ。 目連はそれに気がつくと今度は屋根から逃げた。 二回目の殺害計画も失敗した。
しかし三度目に盗賊たちに取り囲まれた時、 こんなに何度も命を狙われるのは前世の業によるということを神通力で知った。 そしてもはや逃げようとはしなかった。
盗賊たちは目連を捕まえた。 神通力を恐れて石を投げつけた。 大小数知れぬ石が目連の体を砕いた。
盗賊たちは目連が死んだと思い、 茂みの中に捨てて立ち去った。 意識を取り戻した目連は、 お釈迦様にお目にかかってから涅槃に入ろうと思い、 神通力によって石で砕かれた自分の体に法衣を着せ、 空中を飛行して釈尊のもとに降りた。 釈尊を礼拝して、
「世尊、 わたしは涅槃に入ろうと思います」
「目連よ、 どこで涅槃に入るのか」
「はい、 今住んでいるカーラシラーです」
「それでは目連よ、
涅槃に入る前にわたしに法を説いてくれないか。 おまえのような優れた弟子には二度と会うことはできないだろうから」
目連は釈尊に礼拝して空中に飛び上がり、 神通力によって種々の威力を示して法を説いて、 釈尊にお別れを告げて森へと向かい、 そこで静かに涅槃に入った。
盗賊たちが目連を殺したというニュースは広い範囲にすぐに伝わった。 王様は盗賊を捕まえるため聞き込み捜査を行った。 しばらくすると密偵が国王に報告した。
「王様、 盗賊たちは酒場で飲み明かし、 くだを巻いておりました。 やがて喧嘩になって、
『目連に最初に石を命中させたのは、 お前だ』
『いやお前だ、 目連尊者の祟りがくるぞ』
『いやおれだ』 『違うおれだ』 と怒鳴っておりました」
すぐに盗賊たちは捕まえられ王の前に突き出された。
王は盗賊に聞きただした。
「目連尊者を殺したのはお前たちか」
「そのとおりです、 石を投げつけて殺しました」
「だれかに頼まれて殺したのか」
「裸の修行者たちからお金をやるからと頼まれました」
国王は五百人の修行者たちを捕まえさせた。 王宮の庭に深い穴を掘らせ盗賊の頭をはじめ一味をことごとく穴に落とし、 わらで覆って火をつけた。 王は彼等が焼かれて灰になったのを知ると、 鋤で土を混ぜ埋めてしまった。 夕方になって、 比丘たちは釈尊のところに集まり尋ねた。
「目連尊者は偉い方なのに、 どうして非業の死を遂げなければならなかったのでしょうか」
「比丘たちよ、 目連尊者は禅定第一の弟子にふさわしくない死に方をしたように思えるが、 それは前世に彼が行った悪業にふさわしい死に方なのです」
前世の悪業 目の不自由な両親の殺害
昔、 バーラーナシーに住む一人の男が目の不自由な両親を大切に世話をしていた、 近所でも評判の親孝行だった。 「息子や、 一人で家の仕事や、 畑仕事、 親の世話まで大変だろうから嫁をめとったらどうか」
両親は彼に結婚するように何度も勧めた。 息子は、
「お父さん、 お母さんあなた方は自分の手でお世話しますから嫁はいりません」
と答えた。
ところが両親はそれでは気がすまず、 嫁を迎えることになった。
しかしもらった嫁は邪険な女で年寄りの世話を嫌った。
「もう、 あなたのお父さんやお母さんのめんどうみることはできません。 いっしょに住むことはできません」
嫁は不機嫌に言ったが、 彼は一向に取り合わなかった そこで彼女は、 夫が畑に出かけた留守に食べ物をあちこちにばらまいておいた。 夫が戻ってきて尋ねると、
「目の見えない年寄りたちがしたのです、 いつもこうなんです。 家中散らかして歩き回るのです。 もう年寄りたちと暮らすことはこりごりです」
妻はそう言って涙を流した。 一生懸命に尽くしてきたがもはや自分も疲れてしまったというように涙ぐむ嫁の姿に夫の心も動いた。 妻の計略とも気付かぬまま親孝行の息子も気が変わり、 両親を殺そうという恐ろしい思いが心に浮かぶようになった。
ある日、 彼は両親をだましてこう言った。
「お父さん、 お母さん親戚の人が家を造ったのであなた方を招待したいといってきました。 今日は天気もよいので出かけましょう」
そうして年寄りたちを乗り物に乗せて森の中に連れだした。 森の真ん中にさしかかった時、 息子は言った。
「お父さん、
お母さん、この森に盗賊が出ると言われています。 私は車から降りて、 この先を見て来ますから、 この手綱を握っていて下さい。 牛が道を知っていますから車はひとりでに進みますから」
息子は父の手に手綱を渡して車から降りた。 そうして車から離れると、 盗賊たちが襲ってきたような物音をたてた。 両親はこの音を聞くと、 盗賊が襲ってきたのだと思い、 大きな声で息子に言った。
「おーい息子や、 年老いている私たちのことはいいからお前は自分の身を護りなさい、 はやく逃げなさい」
彼は両親が息子の身を案じてこのように叫んだにもかかわらず、 盗賊がだんだん近づいてくるように思わせてますます大きな恐ろしいような音をたてて、 ついに両親を打ち殺して森の中に捨てて立ち去ったのだ。
釈尊は、 目連の過去の行為を語った後、
「比丘たちよ、 目連はこの業の故に、 何百何千年という間地獄で苦しみ、 そして残りの何百という生涯でも何度も打たれ、 骨を砕かれて殺されてきたのだ。 このように今度もまた目連は自分の業に応じた死に方をしたのだ。
また五百人の裸の修行者も、 過ちのない私の弟子に対して悪業を行ったので、 やはりふさわしい死に方をしたのだ。
罪もない者に悪いことをする者は悲運に至るのだ」
と教えられた。
罪なき人にむちを持ち 害する者は
次のうち十の一つに 遭遇す
苦痛 老衰 怪我 病気
もしくはやがて 気がふれる
あるいは天の 無理強いか
讒訴(ざんそ)か または親族の
破滅か 家財の喪失か
あるいは雷 家を焼き
死んで地獄に落ちていく
釈尊曰く:
○人はその業に応じてこの世を去れり
○人は前世の因縁を消滅する業を背負って生かされる
○かつての悪行を、 のちに善行でつなぐ者は、 雲間を
はなれた日のように 世の人を照らす
○過去の悪業の報いを今、 ここに受けているのだから
耐え忍び、 今なすべきことを真面目に行ずること
合掌
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