「宝塔」第376号
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子供は親の背を見て育つ

 人が生まれたままで育てばどうなるか、犬や猫と同じで道路の片隅で大小便を平気でする様になり、道は臭くて通れなくなります。先日も猫が庭の隅で、じっとうずくまって大便をしてすうっと出て行きましたし、朝早く玄関をあけると、入り口の所に犬がしたらしい、少し柔らかめのがしてありましたので、後片付けをしましたが、喜べませんでした。人が生まれたままで育てば、この様に同じ事をするでしょう。そこで、しつけ教育が必要になります。
 子供は小さい時から親の背中を見て育つのです。いつもこうしたらいけない、こうしなさいと小言を聞きながら育つのですが、やはり親の行いをじっと見ています。子供はあまりにも大きな期待がかけられています。子供から見れば遊びたい時に、思うように遊ぶ事が出来ない。こうした事が親から見れば、遊んでいては子供の為にならないと、常に親自身の思いで子供を縛っているのです。子供が小さい時は親の言いつけ通りにしなければ叱られるからと、辛抱していますが、だんだん大きくなるに従って、親の言う事を無視して、親は勝手な事ばかり言うと思う様になり、そのうちに反抗をして行くのですが、それでも親の行いだけはじっと見つめて、やがて親を責める様になります。 
 ある家庭の奥さんの話です。
 「子供が中学二年の時にバイクを盗んで警察に捕まり、親が呼び出されました。『あなたの子供さんが、学校を休んで、他人のバイクを勝手に乗り回していたから、親からよく注意をする様に』と叱られました。子供と家に帰ってから、子供を叩いて、『どうしてこんな事をしたか』と叱りますと、子供は、冷たい目で私を見て、『だって学校が嫌になったからしただけだ』と、大きな顔をして言いますので、『お父さんがいないから、私が一生懸命に働いて、あなたを育てているのに』と涙を流して言いますと、子供が一言、『お母さんだって、お父さんが嫌で別れたんでしょう、嫌な事で、勝手にお父さんと別れたのに、僕が学校が嫌になってやめたいと思ったって、お母さんと一緒だよ』と言われました。考えてみれば些細(ささい)な事で夫婦喧嘩をして別れましたが、子供からこんな事を言われるとは思いませんでしたと。大人の世界と子供の世界とは違うと思っていましたが、でも子供は私達の事をじっと見ているのですね」
 と涙ながらに語られました。
 又別のお宅の話になりますが、お父さんを早く亡くされたお母さんが、掃除婦や家政婦などをしたりして、三人の男の子を育ててみえました。このお母さんは常に子供たちにこんな事を言ってみえました。
 「お父さんがいないから、お母さんが一生懸命働いて、あんた達を食べられるだけ食べさせてあげるから、自分の事は自分で考えなさい。高校も公立なら月謝は出してあげられますが、私立なら出せません。自分で考えなさい」
 子供は子供で、僕たちは自分で何でもしなければならないからと、一生懸命に勉強をして、三人の兄弟がそろって公立の大学を卒業され、就職も順調にすることが出来ました。この三人の兄弟がいつも、お母さんが頑張って僕たちを育ててくれたからと、三人共、お母さんを大切にされ、今、そのお母さんは毎日を喜んで暮らして見えますが、お母さんが言われるのには、
 「私は子供にはひもじい思いだけはさせたくない、食べる事だけはどんな物でも腹一杯食べさせてやりたいと思って、後の事はすべて自分で考えて自分の責任の上でする様に言っただけですが、こんなに子供達が立派に成人してくれて、今又、三人の嫁達までが私の事を気遣ってくれています。こんな幸せな日が来るとは夢にも思っていませんでした。本当に毎日を感謝して暮らしています」
 とのことです。
 前述のお母さんのことですが、お母さんがお父さんと喧嘩をして別れた事、子供にしたら、お父さんが嫌だからお母さんがお父さんと別れた、僕が学校が嫌になって学校を止めたらどうして悪いのかと、子供さんから見たら嫌だからと簡単に考えてのことなのです。
 子供は良い悪いは別にして、親の行いだけはしっかりと見て育ちます。後の方のお母さんは食べる事だけはと後の事は自分で責任を持ちなさいと子供に教えて、只、一生懸命に働いて来た、こんな僅かな違いが、大きく人の一生を左右するものです。
 中学校の先生と親しくなり、その先生に学校で少し問題のある生徒の家庭を調べてみたらと話しましたら、これはいいですねと、一年ほどかけて少しづつ、一つの統計を取ってみえました。調べた生徒の家庭は母親が口やかましく、父親をいつも口汚く罵(ののし)ったりしていることが多く、そんな家庭の子供さんは、学校では、悪さをしたりしている事が八十%以上であることが判ってきました。この先生は、子供は家庭が大事ですね、家の中の良し悪しで、子供がこんなにも違うとは思いませんでしたと言ってみえました。
 子供は親の行いを見て育ちます、これが大切な家庭の教育です。
 一つの例ですが、ある方には一人息子さんがおられて、
 「中学高校と素直に勉強をして、大学を出て、勤める様になりました。三十に成って或る女性と生活をする様になり、家を出ましたが、悪い女に出合ったので僕の働きだけでは生活が出来ないので、毎月、お金の仕送りをしてくれと頼まれ、この所、毎月仕送りをしております、こんな事が何時まで続くのかと思うと憂鬱(ゆううつ)で、主人とよく喧嘩をします、どうしたらよいかと迷っています」
 との相談でした。この方は主人の年金で暮らしてみえるそうです。「主人は、もう放っておけ、と言いますが、たった一人の子供ですので、可哀相です」とのことです。
 このお母さんは子供を育てるのに、余りにも可愛がり過ぎて、そして自分の思う様に育てられたのです。お母さんに素直という事は、女性に対しても素直になるものです。親はいつまても長生きするとは限らないのです。一人でも生活の出来る子に育てることを忘れていたのです。社会に出ると苦しい事、辛い事のあるのをもっとしっかり教えるべきでした。子供をどんなに可愛がってもいいが甘いものだけでは子供を駄目にするものです。このお母さんには、
 「三十にも成ったら自分の事は何でも自分でやって行くこと、仕送りは一切しませんからときつく申し渡すことです」
 とはっきり言いました。人の生活はどのようにでもなります。贅沢(ぜいたく)をすればいくらお金があっても足りません。耐える生活をすればどんな事でも出来ます。
 四十過ぎても結婚が出来ず、年老いた両親と共に暮らしている娘さんで、今日までいくつか縁談の話もありましたが、親が出ては、いつも破談にされていました。ある時、親と喧嘩をして家を出たのですが、親の住んでいる家は、その娘の名義でローンで支払いをしていたものですから、親の方から、ローンを支払えと請求が来ますので、支払いはしなければならず、今住んでいるワンルームの家賃が、二万二千円、色々と支払いをすると十万円程支払いをするので、後二万八千円で生活をしなければならないと嘆いてみえました。私は、娘さんに、
 「朝はパン一枚とインスタントコーヒー、昼は即席ラーメンで、夜はご飯を茶碗一杯、鳥串一本で暮らせばお金は残ります、やってみなさい」
 と言いましたが、そんな事をしていたら栄養失調になると行わないうちから心配するから、「やってみて、成ったら考えてみなさい」と話しました。そんな生活を始めて半年程で、体重が二キロ増え、毎月の生活費も七千円程で、貯金も毎月二万円出来る様になりましたと喜んで報告をしてくれました。
 人はどんな事でもやってみる事です。先程紹介した一人息子のことで悩んでおられるお母さんに、この娘さんの経験をお話をして、その息子さんにしっかりと生活をすることを教えるのが大事ですと言いました。可哀相とか、余分な事を心配するよりも、一家を支えなければならない道を教えることです。親も姿勢を正し、子供にしっかりした道を教えることです。    

                            合 掌

宝塔第376号(平成23年5月1日発行)